おでかけサンダル 開発ストーリー <チャプター3>


前回のストーリーはこちら

実物大サンプル試着

しばらくして、3Dプリンターで出力した実物大のサンプルが届きました。

量産用の金型を作る前にデジタルデータに問題がないか、このサンプルで確認します。
恐る恐るリアルサイズぬいぐるみに履かせてみると…、

メリッ!!!

やってしまった…!

慌ててソフビ製造メーカーに確認すると、今回の3D出力サンプルは実際にリアルサイズぬいぐるみが履けるかどうか試せるように、ソフビと質感の似た柔らかい素材で出力したため壊れやすくなっているが、実際にソフビになった時には耐久性に問題はないので、サンプルが壊れても心配はいらないとのことでした。

ホッと胸を撫で下ろす製作陣。
ただ問題は、この状態のサンプルでOKかNGか判断しなければなりません。

もしこのまま進行したら、次はいよいよ金型作成。金型は一度作ってしまうと微調整ができない上に高価なため、この段階での判断は後戻りできないとても大事なポイントなのです。

サイズは大丈夫だろうか…?
理想通り履かせやすく脱げにくいか…?
そもそも今回の3D出力サンプルと実際に金型から成形されたソフビには、サイズや柔らかさにどの程度の差があるのか?
もし差があるとしたら、それらはどの程度問題になってくるのか?
万が一、金型になった時点で重大な欠陥に気づいたらどうしよう…。

壊れたサンプルを何度もそっとリアルサイズぬいぐるみに履かせてイメージしてみます。
しかしOKかNGか、なかなか決断できない製作陣。

その頭の片隅には、数年前にトライした1度目のソフビ靴製作プロジェクト失敗の記憶が蘇ります。

トガリ
ちょとまだ、色いろ、むずかしそだねぇ! 大じょぶかな? しんぱいだねぇ

挫折と再始動

実はトガリのソフビ靴製作は、数年前に一度試みたものの製品化に至らなかった過去があります。

ソフビの製造は、製品の形に鋳造した「金型」に素材を流し込んで成形するのですが、原型から製品に至るまでの工程でひと周り程度(最大約5-6%)縮むとされています。またその収縮率は季節や気温、湿度により変化するため、結果的にどの程度の縮むかは、作ってみないと分からないのです。

その上、ソフビの金型は、職人の手で鋳造する1点ものになるため非常に高価で、一度出来上がった金型は修正やリサイズ(サイズの微調整)ができません。万一金型の段階で問題があった場合は、一旦原型に戻って修正を施し、再度金型を作り直さなければならないのです。

以前トガリの靴の製品化にトライした際には、まさにこの金型の段階でサイズの問題が発生し、成形した靴をリアルサイズぬいぐるみにうまく履かせることができず、残念ながら開発を断念せざるを得ませんでした。

そもそもソフビは、製造過程で数%収縮する性質から、今回の「靴」のように既存製品(リアルサイズぬいぐるみ)に対してミリ単位の精密なサイズ感が求められる製品には不向きな素材とも言えます。
しかし一方で、もし理想的な金型を作ることができれば、リアルサイズぬいぐるみにジャストフィットする同じサイズ(※)の靴を安定的に量産することが可能になります。
(※実際には製造時の気温・湿度など外的要因により、装着に支障のない範囲で若干の個体差が発生します)

「やっぱりトガリとリアルサイズぬいぐるみたちにピッタリな、ソフビの靴を作ってあげたい!」

その想いを胸に、2023年、東京トガリ・プロジェクトチームは、もう一度ソフビ靴の開発に挑戦! 前回の挫折経験を活かして、靴のデザインを1から見直し、「履きやすくて脱げにくい」をコンセプトに掲げ、新たに<サンダル>の形状をイメージした「リアルサイズぬいぐるみ専用」のソフビ靴製作が再始動したのです。

トガリ
そんなことがあたんだねぇ! ちょとも知らなかたよ! フレー、フレー、がんばーれ!

テストショット

悩みに悩んだ3Dプリンター出力サンプルのOKかNGか問題。何度も試着してみてサイズは大丈夫そうだし、きっとスタジオ側もこの3Dサンプルでイケると判断して我々に見せてくれているはず。よし、ここはプロの判断を信頼しよう! ということで、最終的にこのまま修正なしで金型作成に進行してもらうことに決めました。

そして約1ヶ月後、金型ができて最初のテストショットが到着! テストショットというのは、金型にソフビ素材を流し込んで作成した完成見本のこと。イメージ通りの形になっているか、確認するためのサンプルです。

早速、リアルサイズぬいぐるみに履かせてみると…、

…ピッタリフィット!!よかったよかった!!

ようやくソフビ素材で形になったサンプルを見てホッと一安心する製作陣。でも、まだまだやることがあります。

まずは、ソフビの硬さの指定。どの程度であれば履かせやすいか入念に検討しました。国産のソフビは硬いタイプが主流なのですが、今回は履かせやすさを重視し、絶妙な柔らかさにこだわりました。

それから、成形色(ソフビ素材の色)を決めたのもこの時。
最初に作るカラーは…もちろんこの2色!



こうして最終的な生産仕様を決定し、いざ量産へ!
長かった道のりも、ようやくゴールが見えてきました。

トガリ
やたね! ぼくにピタリの、カコいい色になてくれて、うれしかたです!
次回いよいよ最終章!
トガリとノラくんがソフビ工房に潜入リポートします。
乞うご期待!